花チャンネル

日々、私の中から生まれる詩、言葉を綴っています。

あの灼熱の夏の日

あの灼熱の夏の日



私はゆっくり生きようと思った。



その日までの私は
数々の重荷を背負って、坂道を駆け上がっていた。


そうすれば強くなると思っていた。
タフになれると思っていた。


疲れ果てても歩き続けた。
でも疲れて
なんのために、何をしているのか、分からなくなっていた。



その日私は趣味で山を登っていた。


長い、暑い、辛い。
いつもよりも体が重い。
ぜーはーしながら登っていた。

突然目の前の森が開けた。
そこは山の中腹で、海がパノラマで見える場所。



綺麗だった。
ただひたすら綺麗な風景だった。



「帰ろう、ゆっくりのんびり帰ろう」


私は満足して山を降りていった。


今までならありえない「途中で諦める」という行動。


ただ「帰ろう」と思った。


帰り道は
それまで抱えていた人生の荷物を山に降ろして来たのでは?
と思うほど、心も足取りも軽かった。



後々私は「戦い」というものを山に置いてきた事に気が付いた。



「こんなの持ってても邪魔でしょ」と山が荷物を降ろしてくれたみたい。


戦いをなくした私は、必要なくなった武器や鎧を捨て始めた。


より身軽に、肌身で風を感じれるように。


体が軽くなって、自然を全身で味わいたくて、歩くスピードは遙かに遅くなった。



あの灼熱の夏の日

あの帰りの山道



山から聞こえた声
「その苦しさが、あなたの人生で味わう最後の苦しさ」
とはっきり感じた、あの感覚。



あの日からずいぶんと経った。
あの山道の苦しさ以上の辛さは今のところ、ない。



武器や鎧をすべて脱ぎ捨てて見つけたものは「花」だった。


頼りなくて、繊細で、弱くて。
向き合いたくなくて。
それで強くなる為にフル装備で戦いを選んでたんだ。


今の私はあの頃よりも遙かに弱い。
でもあの頃よりも遙かに幸せだ。


自分の感受性を押しつぶしていないからね。


自然の声に耳を澄ませる事。
自分の声に正直に生きる事。
そのためにゆっくりのんびりのペースで歩く事。


私はあの灼熱の夏の日から変わっていない。


大切な事だけど、大変な時はつい忘れてしまう。 


だからここへ書き残そうと思って。